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青森地方裁判所 昭和37年(行)1号 判決

原告 平田源三郎

被告 森田村長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が原告に対し、昭和三六年七月一五日付徴税令書をもつて昭和三六年度固定資産税金三、三四〇円を賦課した処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、

「一、被告村長は、原告に対し、昭和三六年七月一五日付徴税令書をもつて昭和三六年度固定資産税金三、三四〇円を賦課した。

二、しかしながら、右賦課処分は、次の理由により無効である。すなわち、

被告村長たる外崎恭太郎は、昭和三四年八月一七日自己が統轄する森田村に対し、金五〇万円を利息金一〇〇円につき一日(日歩)金三銭の割合と定めて貸し付け、同年九月一七日その返済を受けたが、その際、同日までの右利息として金四、六五〇円を収得した。このように三一日間もの利息を収得する継続的取引契約は、地方自治法第一四二条にいう『請負』に該当すること明らかであるから、右外崎は、右契約成立の日より被告村長たるの職を失つたものというべく、したがつて、右賦課処分は、無権限者の行為として無効であるから、原告は、その無効確認を求めるため本訴に及ぶ。」と陳述し、

被告の主張に対し、

「一、被告主張一の事実中、一時借入金に関する被告主張(一)、(二)の各議決があつたことは、認めるが、その余の事実は、否認する。なお、本件貸付当時、被告村長は、既に右(一)の議決による最高限度額金六〇〇万円に達する借入を済ませていたから、その後、右(二)の議決前になされた右貸付は、右(一)の議決の限度をこえる違法貸付である。

二、被告の二の主張は、争う。昭和三六年法律第二三五号地方自治法の一部を改正する法律(昭和三六年一一月二〇日施行)によつて同法第一四三条第一項が改正された結果、被告主張のような規定が加えられたのであるが、本件貸付当時は、まだ右改正法の施行前であつたから、右改正前の法律を適用すべく、それによれば同法第一四二条に該当するものは、なんらの手続を要せず、当然に失職するというべきである。

三、被告の三の主張も争う。」と答え、

立証〈省略〉

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として

「請求原因第一項の事実は、認める。同第二項中、被告村長たる外崎と森田村との間で、原告主張の日にその主張の金員の貸付、返済、利息の収受があつたことは、認めるが、その余の主張は争う。すなわち、

一、森田村は、一般歳出予算内の支出をするために(一)昭和三四年三月二七日金額六〇〇万円、利率日歩金三銭以内、(二)同年九月九日金額四〇〇万円、利率右同とそれぞれ定める一時借入金に関する村議会の議決を経ていたところ、同年八月職員の給与支払に充てるため緊急に一時借入をする必要に迫られたが、当時金融機関から融資を得ることができず、そのためにやむなく被告村長たる外崎から、右議決により認められた利率をもつて金五〇万円の一時貸付を受けたのである。

右のような一時貸付は、地方自治法第一四二条にいう請負に該当するものではない。

二、かりに該当するとしても、右該当の有無は、地方自治法第一四三条第一項により森田村選挙管理委員会がこれを決定することになるところ、本件では、まだ右決定がなされていないから、外崎は、被告村長たるの職を失つていないというべく、したがつて、本件賦課処分もまた無効となるものではない。

三、かりに右二の主張がいれられないとしても、本件において『請負』に該当するかどうかは、極めて微妙な問題であるから、原告主張の違法のかしは、明白でないというべく、また、固定資産税の賦課処分は、課税対象、税額等につき、法律に定められたところを事務的に執行するものであるにすぎず、そこに被告村長の自由裁量をいれる余地はないから、右違法のかしは、重大でないというべく、したがつて、本件賦課処分は、当然無効ではなく、取り消し得べき処分であるにすぎない。」と述べた。

立証〈省略〉

理由

被告村長が原告に対し、原告主張の固定資産税賦課処分をしたこと、およびこれに先だち、同村長たる外崎と森田村との間において、原告主張の日にその主張のような金員の貸付とその返済、利息の収受がなされていたことは、当事者間に争いなく、そして、成立に争いがない甲第二号証、証人中野又五郎の証言と弁論の全趣旨によれば、森田村は、その職員に対する昭和三四年八月分の給与支払の財源に不足をきたし、一時借入をする必要に迫られたので、その急場をしのぐため、やむなく被告村長たる外崎から融資を仰ぐこととなり、一時借入金として(それが原告主張のごとく被告主張(一)の議決の限度額を超えるものであるか否かはさておき)右貸付を受けたものであるが、右外崎から貸付を受けたのは、この一回限りであることを認めることができる。

ところで、地方自治法第一四二条によれば、普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者たることができないとされているが、ここにいう「請負」とは、普通地方公共団体の長の公正な職務の執行を保障しようとする同条の立法趣旨に照らし、民法上の請負よりも広義に解すべきものと思われるから、利息付消費貸借契約であつても、それが継続的に回数を重ね、地方公共団体の支出金(利息)を得ることを業とするような程度に至れば、右にいわゆる「請負」に該当するものと考えられる。しかしながら、本件においては、前段判示の事実によれば、明らかに右の場合とは異なり、単なる一回限りの一時的な契約であるにすぎないと認められるから、「請負」には該当しないというべきである。

そうすると、外崎が被告村長たるの職を失ういわれはないというべく、したがつて、これと異なる前提のもとに本件賦課処分の無効確認を求める原告の請求は、その余の判断をするまでもなく失当であるから、これを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条に従い、主文のように判決する。

(裁判官 野村喜芳 佐藤邦夫 小林啓二)

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